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10月15日
2009年
posted by admin6 at 6:01 PM
今日は、植物を使った環境浄化、ファイトレメディエーションについて紹介しましょう。

ファイトレメディエーション???

ギリシャ語で植物を意味する“phyto”と英語で修復を意味する“remediation”からできた造語で、植物を使った環境修復・浄化技術のことです。例えば鉛などの重金属で汚染された土壌に植物を植え、植物が重金属を吸収する力を利用して土壌を浄化します。

植物で環境が浄化できるなんてスゴーイ。どんな植物でも使えるんですか。



昔から鉱山地帯に生息している植物には、こういった重金属を蓄積する性質を持つものが知られていて、鉱脈探しに使われていたりしたわ。だけど植物は育つのに時間がかかるので、環境浄化にはあまり向かないと考えられていたの。ところが、2001年にヒ素を大量に蓄積するシダが見つかったの。乾燥重量で0.2%のヒ素を蓄積することがわかり、環境浄化技術へ応用できるのではないかと、とても注目されるようになりました。

ヒ素って毒じゃないの?推理小説で毒殺に使われたり・・・。

そうね。亜ヒ酸As2O3(三酸化二ヒ素)は毒性が非常に高いの。だけど最近では、血液のがんともいわれる急性白血病の治療薬としての可能性も指摘されているわ。

がん細胞を亜ヒ酸の薬でやっつけるなんて、毒をもって毒を制すって感じですね。

そうね。それからヒ素はヒジキやワカメなど海藻類には微量に含まれているのよ。

えー。ヒジキにヒ素が入っているの?たくさん食べたら死んじゃうの?

それほど心配しなくても大丈夫。だけど2004年7月にイギリスの食品規格庁は、ヒジキには無機ヒ素化合物が含まれているので、ヒジキを食べないように英国民に対して勧告を出したのよ。
イギリスの発表に対して、日本の厚生労働省はすぐに反論を出したわ。体重50 kgの人が毎日4.7g(一週間当たり33g)以上のヒジキを継続的に摂取しない限り、WHOが定めた許容一日摂取量を超えることはない。それに我々日本人は昔からヒジキを食べているけれど、ヒ素中毒になったという話は聞かないでしょ。通常の摂取量だったら何の問題もないと思うわ。ヒジキは食物繊維を豊富に含み、必須ミネラルも含んでいるので、むしろリスクよりもメリットのほうが大きいんじゃないかな。

あー、よかった。

ただ人体に与える影響について、完全にわかっているわけではないので、やっぱり妊婦や幼児によるヒジキの大量の摂取は控えるべきだ、と主張する研究者もいて、意見がわかれているところなの。
判断が難しい理由の一つとして、ヒ素の毒性は、その化学形態によって違うということが挙げられるわ。ヒ素は大きくわけて無機ヒ素化合物有機ヒ素化合物に分類されるの

arsenite.png
 
arsenate.png
 
亜ヒ酸 H3AsO3 ヒ酸 H3AsO4 無機ヒ素化合物
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arsenite.png
 
arsenate.png
 
ジメチルアルシン酸 アルセノベタイン 有機ヒ素化合物

無機ヒ素化合物のうち、亜ヒ酸のヒ素は3価で非常に毒性が高く、ヒ酸のヒ素は5価で毒性はあるけれど亜ヒ酸の1/10程度。有機物と結合している有機ヒ素化合物は、さらに毒性が低く、ワカメやエビなど海産物の中のヒ素は大体この有機ヒ素化合物なので、あまり問題にならないのよ。ヒジキの場合には、海藻類の中では珍しく無機化合物のヒ素の割合が多く、それで問題となったのね。

同じ元素でも化学形態によって毒性が違うというのは面白いですね。

そう、それから極微量のヒ素はある種の生き物にとって必要であるということが報告されているわ。

毒なのに必要なんですか?

そうよ。体内で極微量のヒ素の働きを知るために、いろいろな研究が進められているわ。

多すぎても少なすぎてもダメってことなんですね。

化学形態も重要なんでしょ?

そういうことね。
さて話をファイトレメディエーションに戻しましょう。

この写真のモエジマシダPteris vittata L.)は、ヒ素で汚染された土壌でも元気に生長し、体内にヒ素を高濃度に蓄積するということが2001年に報告されたの。普通の植物ではとても生きられない環境でもピンピンしている。面白いことに、5価のヒ素を添加して栽培しても、葉に蓄積するときは3価に還元しているのよ。しかもヒ素の大部分は無機ヒ素化合物なの。
モエジマシダ.png

えー、わざわざ毒性の高い形態にしているんですか。

どうして枯れないんだろう。ヒ素がすきなのかな。

不思議ね。植物の体内は還元的な雰囲気だからと考えることもできるけど、毒性の高い3価のヒ素を蓄積しても枯れずにいるんだから、それなりの防御機構や蓄積機構を持っているんでしょうね。
陸上植物の中で、ヒ素を高蓄積する性質を持っているのは、このモエジマシダとその仲間数種類だけ。植物学者たちは、その秘密を遺伝子から解き明かそうとしているわ。

すごーい。

化学的に考えると、ヒ素(As)は周期表でリン(P)の下に位置する。ヒ素の化学的な性質がリンと似ているので、シダはリンと間違ってヒ素を取り込んでいる、とも考えられるわ。リンはDNAを構成する元素だし、生物の必須元素よ。

じゃあ、DNAにもヒ素は取り込まれているの?

それはどうかしら。
ただ、取り込まれたヒ素がどこへ運ばれているのか、どんな化学形態なのか、どんな元素と一緒にいるのか、などの情報が、ヒ素の蓄積機構を解明するカギとなるでしょうね。

私の研究室では、X線を使って、植物における重金属蓄積機構の解明に取り組んでいるのよ。

植物にX線?

そうよ。
X線といわれて何を思い浮かべるかな。一番身近なX線の利用は、レントゲン撮影かしら。あとは空港での手荷物検査。どっちも非破壊でしょう。つまりX線は非破壊検査が可能なの。

だから、植物が生きている状態でも、X線でそのまま分析することができるわ。特に放射光X線マイクロビームを使うと、1マイクロメートルサイズで分析ができるので、細胞1個の中の分析ができるのよ。

1マイクロメートル?えーと、マイクロメートルは10-6メートルだから、100万分の1メートル?

ええ。人の髪の毛の直径が100マイクロメートルくらいだから、その100分の1くらいってことね。

見えない!

全くね(笑)。
だからマイクロメートルのX線を使う分析装置をX線顕微鏡とも呼んでいるのよ。

そのシダは、実際の環境浄化に使われているんですか?

最初にアメリカで、産業化されたわ。
汚染土壌にモエジマシダを植えておくと、シダはヒ素を吸収してグングン育つ。秋になったらそのシダを刈り取る。このシダはヒ素を主に葉っぱに蓄積するので、地上部だけを刈り取ればいいの。植物を育てるのは太陽のエネルギーと水だけ。環境にやさしい浄化技術なのよ。

植物を使わない通常のやり方だと、土を掘り出して工場に運びだし、化学的に洗浄してから埋め戻す。だいたい1坪あたり6万円くらいかかるし、土を掘ったり運び出したりするときに周りに2次的な環境汚染を引き起こす危険性もあるわ。

植物を使った環境浄化は、化学的な土壌洗浄と比べると浄化に時間はかかるけど、省エネルギーで低コストだし環境にやさしいというところがメリットね。アメリカでは、web上でもモエジマシダが1株単位で販売されているのよ。

日本でも、試験的だけどモエジマシダを使った環境浄化が始められているわ。

土壌が浄化されたあと、刈り取られたシダはどうなるの。
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現状では、残念ながら産業廃棄物となっているわ。だけど、ヒ素を高濃度に蓄積しているので、将来的には新しいヒ素の資源となる可能性がある。実はヒ素は半導体材料として、とても重要な元素なのよ。

環境を浄化してくれたシダが新しい資源になるなんて、一石二鳥ですね!

私は、植物に金属を蓄積させるなら、金がいいな!
金を蓄積する植物ってないんですか?
一応、報告はあるわよ(笑)。ただ、環境中で金は安定な金属状態で存在することが普通だから、土壌に植物を植えても、残念ながらそのままでは吸収できないでしょうね。金を多く含む工業廃水だったら、そこから金を回収できるかもしれないわね。
その他にも、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、ランタノイド、鉛、ウランなど様々な元素を蓄積する植物が知られているわよ。蓼食う虫も好き好きってことね。

次回は環境科学講座第13回へ続く

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