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01月22日
2010年
posted by 鈴木 隆之 at 2:33 PM
先生、こんにちわ!

…..

あれ、読書中ですか、先生。

ああ、ごめん。つい熱中してしまって、君たちが来たのに気がつかなかったよ。

何を読んでいるんですか?

これかい?『グリーン革命』(日本経済新聞社、上下巻)という本だよ。
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「グリーン革命(上)」 「グリーン革命(下)」

園芸の本ですか!

そんなわけないでしょ。環境化学科の先生なんだから。グリーンはグリーンケミストリーに関係があるに決まってるじゃない。

…..

まあ、頭からそう叱らなさんな。確かに、表題からすると、環境問題に関する本だろうという先入観をもってしまうね。実際、話題は地球環境、特に温暖化を中心に、持続ある社会のために必要な人類の取るべき指針を述べているんだけれども、読み進めていくと、ビジネス本ともとれるし、アメリカ国民への啓蒙書のようにもとれるね。

なぜアメリカ国民なんですか?

この本の著者がトーマス・フリードマンというアメリカのジャーナリストなんだ。ピュリツァー賞を3回も受賞している人だよ。

ちょっと、割り込むようですみませんが、ビジネス本なんですか?僕、お金もうけには興味あります。

不純!

お金もうけを悪いと一蹴してはいけないよ。我々の社会は、いってみればそれが駆動力になっているんだからね。

そうですよね、先生。要は、お金もうけが世の中のためになるような制度になっていれば、善行為ですよね。

その通りだね。そういう意味で国家の指導者が重要になるわけだ。先見性のある政策を考え、実際に実行することが大事だね。実は、この本で一番いいたいところはそこだと思うよ。オバマ大統領へのメッセージともいわれているけれど、鳩山首相にも読んでもらいたいなあ。

先生、僕、その本読みたいです。

いよいよ、目覚めたか!電機大学出身の総理大臣を目指すか?

違いますよ、先生。先生の話の中で『お金もうけ』しか聞こえていませんよ。

そうなのか。

…..

ところで、その本では、将来の地球はどうなると予想しているんですか?

最近の発展途上国の進展ぶりを見れば、一目瞭然だけれども、世の中には中流階級の人口が急速に増えている。いわゆる、我々と同じ生活レベルの人が特に、中国やインドなどで多くなっている。一見、貧困に喘いでいる人たちが豊かになっているようで良い方向のように感じられるけれど、そういう中流階級の生活はどのようなことをしているだろう。我々の生活をとってみればわかるよね。

寒くなったり、暑くなれば、エアコンのスイッチをいれますし、移動には車や電車、遠くであれば飛行機も使います。

そうだね。つまり、これまでよりも消費エネルギーが増えるわけだ。そのエネルギーはどこから得るんだい?

現状では、化石燃料が主流ですね。

そう、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料だね。よって、次のことが起こる。(1)エネルギーや天然資源の需要の増大、(2) 産油国とその独裁者への富の集中、(3) 温暖化ガスの大量放出による破壊的な天候異変、(4) 電力をもつものともたないものとの貧富の格差、(5) 生物多様性の破壊。この本では、これらの問題を解決するにはどうしたらいいかを提言しているんだ。

この本は地球環境だけでなく、社会問題も扱っているんですね。

それぞれの項目を淡々と読み上げると無味乾燥だけれど、豊富な取材資料に奥深い議論が交わされているよ。是非、読んだらいい。

私は、最後の項目の『生物多様性の破壊』に興味があります。

君は、以前にサンゴの話をしたときもそうだったけれど、生き物を大切にしているよね。人類が新たな油田や鉱山を掘り起こそうとするたびに、先住の生物が犠牲を受ける。まだ、我々の知らない生き物がいるかもしれない。

人類の登場する以前から、環境に適応しながら存続している生物がいとも簡単に滅んでしまうというのは、悲しいですよね。

そうだよな。頑張って進化に進化を重ねて環境に順応してきたのに、あえなく人間にその流れを断たれてしまうのは気の毒だよな。

君は今、“頑張って”って、言ったかい? それは、ダーウィンの自然選択説について言っているのかい?

そうです…けど…???

ダーウィンの自然選択説では、個体の得た新たな特性は次の世代には引き継がれないよ。だから、一個体が頑張ったところで進化するわけではないんだよ。ポイントは変異だ。生物が繁殖のために利用できる資源には限りがあるので、好ましい変異をもった個体はより生き延び、彼らの子孫にその変異を伝える。同時に好ましくない変異は失われる。この結果、新種は誕生するという流れだ。

ええ、そうなんですか?木の高いところの葉を食べたいがために、首を毎日頑張って伸ばしていたからキリンは首が長くなったのではないのですか?

幼稚園の園児、そのままじゃない。

……

キリンの群れには、ある程度の範囲で首の長さの異なる個体が分布している。皆が全て厳密に同じ長さの首をもっているということはない。その中で、少しでも首の長いキリンは、他のキリンよりも葉を食べるチャンスが多くなり生存に有利になるわけだよ。このキリンは生存の観点から見ると『好ましい変異』になる。生き延びる確率も相対的に高い。そこで、首の長いキリンが新種として出現してくる。

ダーウィンの自然選択説について、勉強し直したいです。確か、『種の起源』でしたよね…..有名な著書は。

そうだけれど、君があれをいきなり読むのは難しいかもな。極端にいうと、今となっては間違っていることも書いてある。その辺のことも注釈してある本から読み出したらどうだい。「ダーウィン『種の起源』を読む」(北村雄一 著、化学同人)が最近では、お奨めだね。※「種の起源」は翻訳本として岩波文庫のほかいくつかある。新訳も出ている(光文社古典新訳文庫)。


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「種の起源(岩波文庫)」 「種の起源(光文社古典新訳文庫)」
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「ダーウィンの『種の起源』を読む」

それにしても、頭のいい人はすごいですよね。将来の世界をここまで合理的に予想してしまうんですからね。

そうだね。SF作家なんかは、もっと先の将来を想像して書いているから、その想像力というか創造力には脅かされるよね。例えば、「第四間氷期」(新潮社)を書いた安部公房なんかね。

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嘘でしょ、先生! 安部公房はSF作家ではないですよ。私たちを入試でいじめた、難しい現代文を書いている人ですよ。

確かに、安部公房は、入試問題によく使われるよね。でも、SFも書いているんだよ。「第四間氷期」を読んで、現在の地球環境と比べてごらん。きっと、驚くよ。

へえー。環境を扱う学問領域って、まさにボーダーレスですね。ありがとうございました。

僕は、「グリーン革命」を読みます$$$

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