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03月11日
2010年
posted by 川崎 寿 at 2:30 PM
まずは前回の復習をしよう。前回は、アメリカやEUでエタノールや乳酸以外にもいろいろな物質を植物由来の再生可能資源からバイオテクノロジーの力で作ろうというプロジェクトが進行中だということ、これは今まで石油に頼ってきたさまざまなものを植物由来に変えていこうという大きな変革を目指したものなんだという話をしたよね。これに関連する最近の成果のひとつと言えると思うけれど、科学論文を載せる雑誌の最近のもの(2010年1月28日発行のNature(「Nature」というのは雑誌の名称です。))に、微生物を利用して植物由来物質の主要成分の1つであるヘミセルロースからバイオ燃料を作ることが出来たという論文が掲載されていたね。

へぇ~、そうなんですか。ところで、今更ですけど、微生物ってなんですか?

「微生物」という言葉はこれまでの講義にも何度も登場していたけれど、ちゃんと説明をしていなかったね。まずはそれを説明しよう。「微生物」の「微」は「小さい、わずか、百万分の一」という意味だよね。「顕微鏡」の「微」、「微笑」の「微」。「微生物」とは、人間の肉眼では見ることのできないくらい小さい生き物のことなんだよ。細胞の大きさで言うと、多くの微生物細胞はマイクロメートル(μm)の単位で表されるサイズだね。

「マイクロ」っていうと、え~っと。。。

「マイクロ」は10のマイナス6乗のことだから、1マイクロメートルは1メートルの100万分の一、つまり、1ミリメートルの千分の一か!

計算速いね。

ま、このくらいフツーですよ。

自分が出来たときには調子いいのね~。
でも、微生物ってそんなに小さいんですね!

そうだね。多くの微生物は細胞1個で1匹として生きている。たくさんの細胞が集まって1つの個体となっている人間などとは違うんだ。肉眼では見ることができないから、微生物の存在にはなかなか気付かない。でも、微生物の中にもたくさんの細胞が集まるものもいる。カビやキノコなんかはそうだね。
微生物のひとつひとつの細胞が小さいからっといって、地球でのその存在や働きも小さいわけではないんだよ。我々人間の身体の中にも微生物はたくさんいて、ひとりの人間の腸内には約100種類の約100兆匹もの微生物がいると言われている。その腸から排出される便の3分の1は腸内にいた微生物なんだ。

え~っ!身体の中にそんなにいるんですか!

食べたものの消化を助けてくれたりしているんだ。腸内にいる微生物としては、ビフィズス菌などが有名だよね。

ビフィズス菌なら知ってま~す!

また、条件にもよるけれど、土壌1グラムの中には1億匹くらい微生物がいる。微生物のなかには人間などにはとても生きていけない環境でも平気なものもいて、南極や深海にもいるし、100℃でも元気なものもいる。数の多さや存在場所の多様さだけでなく、地球における炭素や窒素などの循環、すなわち地球環境の維持にとても大きな役割を果たしているんだ。
歴史的には、地球上に最初に現れた生物は微生物だし、大昔の大気中にはほとんど存在しなかった酸素ガスを現在の大気中の濃度にしたのも微生物なんだね。

えっ、酸素ガスを作れるのは植物だけじゃないんですね。

そうだよ。光合成できる微生物はごく限られたものだけだけれどね。

私達が生きていけるのは微生物のお陰なんですね。

そうだね。肉眼で見えないから、その存在や働きにはなかなか気付かないけれどね。もっと日常生活に近いところでは、これまでの講義に登場したお酒やヨーグルト、チーズ、漬物のほか、パン、しょう油、味噌、納豆、酢など多くのいわゆる発酵食品が微生物を活用して作られている。

へ~っ、こんなにいろんなものが微生物を利用して作られているんですね。

中には病原菌のように、悪いことをするのもいるけれどね。
さて、微生物の説明はこのくらいにして、本題に戻ろう。

は~い。

人間が生きることはできないような環境でも平気な微生物がいるという話でしたけれど、さっきのヘミセルロースからバイオ燃料を作る微生物はどんな環境からみつかったのですか?

いい質問だね。
さっき紹介した研究で使われた微生物はごくありふれた微生物を改良したものなんだよ。

ええっ!そうなんですか!?
いろんな環境で生きられる微生物がいるって聞いたから、どこかスゴイ環境の中から見つけてきたのかと思いました。

現時点で人類が知っている微生物は地球上に存在する微生物の1%にしか過ぎないとも言われているから、そのような微生物がどこかにいるかもしれないけれどね。
実際、自然界からユニークな働きをする微生物を探索する研究は現在でも盛んに行われていて、それが役に立っているケースもたくさんある。この辺りについては、次回以降の講義で説明しよう。
冒頭で説明したように、いろいろな物質を植物由来の再生可能資源からバイオテクノロジーの力で作ろうというプロジェクトが進行中なんだけれど、それらの多くは微生物の能力を活用するというものなんだ。実は、このように微生物の能力を活用して発酵食品以外の人類に役立つモノ、例えばバイオ燃料やバイオプラスチックのようなものを作るという分野は日本人が大きく貢献しているんだ

ほんとですか~!?
それって、つい最近のことなんですか?

最近もたくさんの貢献があるけれど、最初のきっかけとなった出来事は1956年だね。

そんな昔~!私たち生まれてな~い!

先生も生まれていないよ(笑)。

先生、ホントですかぁ~~。

ほんとうだよ(笑)。
その出来事とは、1956年に鵜高重三さんと木下祝郎さんたちがアミノ酸の一種であるグルタミン酸を植物由来物質(糖)とアンモニアから大量に作る微生物を発見して、その微生物を利用してグルタミン酸を工業生産したことなんだ。それまで微生物で作ることができたものは、さっき挙げた発酵食品類以外では、アルコールや乳酸、そして抗生物質のようなもともと微生物の細胞の外に排出される微生物にとって最終的な生産物ばかりだった。アミノ酸のように、細胞内で利用されるもので細胞の外に排出されないものをバイオテクノロジーで作ることは、少なくとも工業生産のレベルでは、無理だと思われていたんだ。その常識を破ったのが、鵜高さんと木下さんの研究なんだ。この発見がきっかけになって、いろいろなものをバイオテクノロジーの方法で作ろうという研究が盛り上がってきたんだ。鵜高さんと木下さんの研究成果は日本のバイオテクノロジーや微生物の教科書には必ず記載されているし、海外でも非常に高く評価されている。さらにスゴイのは、この鵜高さんと木下さんが見つけた微生物は、50年以上も前に見つけられたものだけれど、今でも現役で世界中のアミノ酸生産工場で働いているんだよ。

おっ~、すっごぉ~い!

なんだか、ボクにもすごい発見ができそうな気がしてきた!

ほんとに調子いいのね~。日本人って言ったって、全然別の人じゃない。

確かに君たちとは年齢がずっと離れた別人格の人だけれど、鵜高さんは今でもとてもお元気で、現役の研究者なんだ。先生の研究室にも時々いらっしゃるので、経験者にしか語れないことを教えていただけるよ。君たちもやる気と志があれば、チャンスはあるよ!

ますますやる気が湧いてきました!
これで大もうけ!!!

まだそんなこと言ってる~。でも、影響受けて、なんだか私も環境問題や資源問題解決のために研究する気持ちが高まってきました!

そういう気持ちは大事だね。二人とも頼もしいなぁ。
夢の実現に向けて日頃の基礎からの勉強もしっかりやろう。

【もう少し詳しく知りたい方へ】
 「微生物ってなに? -もっと知ろう!身近な生命-」 日本微生物生態学会教育研究部会編 日科技連出版

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カテゴリ 環境科学講座, 生物講座

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