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07月23日
2010年
posted by 石丸 臣一 at 2:55 PM
「今年の夏も暑いねぇ」

「あ、先生、そういえば最近姿を見ませんでしたが、どこか行ってたんですか?」

「うん、学会でね。海外出張だったんだ」

「わぁ、海外かぁ。どこへ行ってたんですか?」

「南イタリアのソレントっていう町だよ。」

「良いなぁ。先生、僕も連れて行ってくださいよ。」

「ああ、君が国際的に発表できるような良い仕事をしてくれれば、連れて行ってあげるよ。ただし、発表は英語だよ。」

「げげっ・・・」

「あら、そういえばあなた、英語の単位がまだ残ってたんじゃなかったっけ?」

「うわ、嫌なこと思い出させるなぁ・・・」

「なんだ、まだ英語の単位を残しているのかい?語学や教養科目は早いうちに単位を取得しておかないと専門科目の履修にも影響するし、下手すりゃ留年だぞ。」

「うわー、やぶ蛇だ。」

「で、どうでした?イタリアは。」

「ヨーロッパも今年は猛暑でね、暑かったねぇ。でも、日本と違って朝晩や日中でも日陰にいると過ごしやすかったなぁ。ヨーロッパではちょっとした食事も出来る、日本で言うカフェみたいなお店が沢山あるんだけど、ほとんどどこも冷房なんかかかってなくて、みんな店の外に置いたパラソルの下の日陰でお茶してるんだよ。」

「へぇ、何が違うんでしょう?」

「よし、じゃあ今日はその辺の話でもしてみるか。人間の体温は何度だい?」

「そんなの簡単!36度5分、つまり36.5度くらいですよね。」

「(あれれ、話が全然違うところへ・・・)」

「うん、まあ人によって多少の個人差はあるけど大体そのくらいだね。風邪なんかで38度超えるとだるくて動けなくなってしまうし、40度超えると命の危険も出てくるんだ。逆に現代人は生活が不規則で朝食をきちんと摂っていなかったりストレスなんかが原因で自律神経失調から低体温症になってしまう人もいるけど、ほんの1度か2度体温が低くなるだけで元気がなくなって他の病気にも罹りやすくなってしまうんだよ。君達もちゃんと早寝早起きして朝ご飯をしっかり食べてるかい?」

「その点は自信あります!朝からご飯3杯はいけますから!」

「ふーんだ、そんなときだけ元気が良いのね。」

「まあまあ、朝から元気なのは良いことだよ(笑)
でも、人間の身体が非常に狭い温度範囲でしか正常に活動できないと言うことはわかってもらえたかと思う。」

「でも、人間ていうかほとんどの哺乳類かな?毎日1℃以内に体温の変動を抑えてるって凄いですよね。」

「そうだね。じゃあ、ここで問題だ。一般的な成人で1日どのくらいの熱量を放出しているかわかるかい?」

「えー、そんなのわかんないです。」

「じゃあヒントだ。人間は大体一人で100 Wの電球と同じくらいの熱を発生しているんだ。」

「うーん。ヒントなんですか、それ?」

「まてよ、100 Wってことは1秒当り100 Jのエネルギーってことですね。」

「うん、その通り!」

「そっか、だったら1分が60秒、1時間が3600秒だから、1日なら24時間×3600秒=86400秒を掛ければいいのか。ということは・・・8640000Jですね。」

「ご名答(笑)。まあ、大ざっぱな見積りだから、大体10000 kJだと思ってくれれば良いよ。じゃあ、ここから物理化学の問題だ。」

「うへぇ・・・」

「人間は主に水で出来ているから、人間の熱容量はだいたい水と同じCp=4.2 kJ K-1 kg-1と見て良いだろう。もし人間が閉じた系(外界とは物質の出入りもエネルギーの出入りもない)であるとすると、70 kgの質量を持つ人は1日に何℃体温が上昇することになるかな?」

「(ほっ。ああ、良かった。そんなに難しい問題じゃなかった)ええと、4.2 kJで1 kgあたり1℃上がるわけですから、10000 kJで70 kgなら、10000 kJ / 4.2kJ K-1 kg-1 / 70 kg = 34 Kなんで34℃?」

「そんなに? 1日経ったら体温70℃超えちゃうよ?死んじゃうじゃん。」

「いや、正しいよ(笑)。実際には人間は閉じた系なんかじゃなく、当然熱を外部に放散しているわけだね。」

「そっか。周りの空気に熱が逃げていくんですね。」

「でも待って。さっき人間は100 Wの電球くらいの発熱量って仰いましたけど、電球ってすぐに手で触れないくらい熱くなりますよね。質量が全然違うから暖まり方は違うだろうけど、そんなに熱が逃げていくのかなぁ・・・?」

「うん、とても良いところに気がついたね。そう、空気の熱伝導率は非常に低いので単に空気に熱が伝わるだけじゃあ大して発散することは出来ないんだ。人間が一定の体温を保っていられる最も大きな原因は水なんだよ。」

「みず?」

「そう。水は1 kgあたり2405 kJの熱を奪って蒸発するんだ。熱の放散がすべて水の蒸発によるものだとすると、1日どのくらいの水分を補給しなければいけないことになるかな?」

「じゃあ、今度は私が! ええっと、10000 kJを2405 kJ kg-1で割れば良いんだから・・・4.158 kg、4.2 Lくらいですね!」

「はい、良くできました。実際には直接空気に伝わる熱もあるし、もう少し少なくなるけど、少なくとも人は1日3 L以上 の水分を摂取しないといけないって言われている。このうち、食べ物から1.5 Lくらいの水分が摂取されるんだけど、それ以外によく言われるように2 L近くは水を飲まないといけないって言うことだね。」

「そうかぁ。お水たくさん飲まないといけないんですね・・・」

「そう。老廃物を排出する助けにもなるから水はたくさん飲んだ方が健康にも美容にも良いんだよ」

「でも、僕そんなに水飲まなくても平気ですよ!」

「うん、まあね。若いうちは身体の中の水分量が多いので比較的水やお茶を飲まなくても耐えられるって人は多いね。その分、食事のときに取り込んで溜めてるんじゃないかな。人体の水分量は新生児では75%くらい、子供で70%、成人で60~65%、老人だと50%くらいまで減ってしまうんだ。歳をとるとお茶を飲む回数が増えるってのはその辺に原因があるかも知れないな。」

「ま、それは良いとして、話を元に戻すか。気温が同じでもヨーロッパの方が日本より過ごしやすい理由がわかるかな?」

「さっきまでのお話しと関係があるんですか?」

「うん、大いに関係有りだ。」

「ヨーロッパ・イタリアといえば地中海性気候・・・夏は暑くて乾燥する・・・そうか!乾燥してる分、水が蒸発しやすいんじゃない?」

「あ、水が蒸発しやすくなればその分、体温も下がりやすいってことか。なるほどぉ。」

「うむ。大正解だ。だからヨーロッパでは多少暑い日でも日陰の風通しの良いところで涼んでいれば十分で、クーラーなんか必要ないんだよ。でも、部屋の中に入ってしまうとやはりクーラーが必要になるね。それに比べると、日本は日陰にいても蒸し暑いからね。クーラー無しじゃ辛いことも多いね。でも、日本も昔の家は風通しが良いように造られていて、部屋の中だけじゃなく床下まで風が抜ける構造になっていたから湿気も溜まりにくく快適な造りになっていたんだ。経験が産んだ生活の知恵だね。」

「ああ、わかります。夏休みに田舎のおばあちゃんの家に行くと、クーラーなんか無くて、障子や襖が開けっ放しになってるんですけど結構快適ですよ。」

ところが、都市部では昔ながらの日本家屋に住める人なんてごく限られているし、防犯上も玄関から裏口まで開けっ放しってわけにもいかないからね。多くの人はコンクリートの土台の上に建った密閉度の高い家に住み、夏はクーラーを効かせて生活してる。そうすると、クーラーの排熱と部屋の中の湿気がが外に捨てられてますます蒸し暑くなる」

「やだー」

「それにもう一つ。人間の身体と同じで水の蒸散があれば地表温度は下がるわけだけど、それは本来、植物がその役割を果たしてくれる。地面から吸い上げられた水が植物の気孔から水蒸気として吐き出されることで地表面の温度は生物が生息するのに最適な温度に保たれているんだよ。ところが、都市部では植物が少なく、熱の吸収率が高いアスファルトに覆われた場所が至るところにあるからますます暑くなる。砂漠が暑いのと同じなんだ。特に真夏の東京の路面上の気温は50℃以上にも達するんだよ。いわゆるヒートアイランドって奴だね。」

「ひー、暑いはずですね。(汗)」

「なんとかならないんですかね~」

「うん。一つは公園を多くしたり、線路の軌道内に芝生を敷き詰めて緑化を進めたりして対策を取っているけど、都市をすべて森林に戻すわけにはいかないよね。そうそう、最近では打ち水をして気温を下げようという運動をしている人たちがいるよ。」

「打ち水ですか?」

「打ち水って、商店街のおじさんとかが道路に水を撒いてるあれですよね。なんか地味だなぁ。効果あるのかなぁ。」

「打ち水の効果については、旧国土交通省土木研究所(現在の独立行政法人土木研究所)で東京都内の散水可能な土地1平方メートルあたり1リットルずつの水を撒けば、気温は2℃から2.5℃下がるという試算がなされていたんだ。そこで、この効果を実証しようとウェブサイトを中心として草の根運動を呼びかけ、2003年8月25日の正午に大々的に『大江戸打ち水大作戦』が実施されたんだ。この結果、大手町で2.2℃、練馬で2.4℃気温が下がるのが観測されたんだよ。この打ち水大作戦は、翌年からは東京だけではなく全国に運動を拡げ、さらに2005年にはパリでも行なわれているし、2006年にはメキシコで行なわれた「第4回世界水フォーラム」でPRされたり、2008年スペインで行なわれたサラゴサ国際博覧会でも実施されるなど世界にまで広がっているんだ。風呂の残り湯など、捨ててしまう水を使えば無駄はないし、特別なエネルギーも必要としないのでエコロジーなヒートアイランド対策として注目されているんだよ。」

「すごーい。」

「よーし、僕もお母さんの手伝いのついでに洗い物をした水を取っておいて撒いてみるか!」

「ああ、だめだめ。水なら何でも良いってわけじゃないよ。洗剤や油などが含まれた汚水だと自転車やバイクがスリップしやすくなるし、環境にも悪いだろ。打ち水大作戦のウェブページがあるからそこで約束事をよく読んでから参加してごらん。」

「わかりました~。私たちも夏の暑さを軽減するために協力します!」

「ああ、もうこんな時間だな。喋っていたら喉が渇いたし、体温の上昇を防ぐためにそろそろ水分補給をしてくるか。」

「先生のはどうせビールでしょ!」

「う、ばれたか・・・」

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カテゴリ 化学講座, 環境科学講座

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