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08月25日
2008年
posted by 川崎 寿 at 9:45 AM
「さて、今日は3月の講義の続きだよ。」

「えっと、3月の講義は何でしたっけ?もうずいぶん経つから忘れちゃいました。」

「まぁ、無理も無いね、もう4ヶ月も経つからねぇ。 『バイオエタノールってなに?』だったね。」



「そうですね、思い出しました!「バイオエタノールは環境に良いから、ドンドン作ってドンドン使おう!」って話でしたよね。」

「う~ん。。。君は、この4ヶ月間、ニュースをみていないのかな。。。    

それはともかく、前回の講義は、「バイオエタノールをドンドン作ってドンドン使おう」というほど話は単純じゃないというところで終わったんだよね。その頃世間では、バイオエタノールの良いところばかりが強調されていたんだけれど、この4ヶ月の間に食糧の高騰北海道洞爺湖サミットなどバイオエタノールとも関連する大きな話題があり、バイオエタノールの良い点も繰り返し報道される一方、問題点も随分と指摘されてきたね。」

「へ~っ、食べ物とも関係するんですか?」

「前回の復習だけれど、バイオエタノールの原料として現在使われている糖類は、サトウキビやトウモロコシから取られたものが中心なんだよ。アメリカでのバイオエタノール生産にはトウモロコシが使われているのだけれど、政策的にバイオエタノールの生産と使用を進めている結果、バイオエタノール用のトウモロコシが増産され、食料や飼料に使うものとの競合が問題視されているんだ。実際、アメリカ政府の発表では、今年のトウモロコシ生産高は去年に比べて全体で7%減るにもかかわらず、バイオエタノール用トウモロコシは33%も増加するらしい。価格も2001年に比べて2.5倍くらいに上昇している。

日本では主食ではないからあまり関心は無いかもしれないけれど、家畜のエサとして畜産業に欠かせないものなので、影響は大きいよね。ついでに言うと、日本の飼料用トウモロコシは、ほとんどがアメリカからの輸入なんだよ。

さらに、トウモロコシ増産のために小麦,大豆,オレンジなどの作付面積が減っていて、これらの需給が逼迫し、価格高騰の一因となっているという指摘があるんだ。小麦は、パン,うどん,中華麺など、大豆は、しょう油,みそ,納豆,豆腐など身近な食品の原料だから、日本でも日常生活に影響が出ているよね。これもまたついでだけれど、日本の小麦の約50%、大豆の約70%はアメリカからの輸入なんだよ。これに対してアメリカ政府は、バイオエタノール用のトウモロコシは世界の食糧のなかでの割合はわずかであり、食糧高騰との関連性は低いと主張しているけれどもね。」

「そう言えば、讃岐うどん屋さんが、小麦の値段が上がって大変だって、ニュースでやっていました。」

「そうだね。ちゃんとニュース見てるじゃないか。もっとも、讃岐うどんの小麦は、主にオーストラリア産のようだからアメリカからの輸入ではないけれど、価格高騰の影響は大きいだろうね。

でも、値段が高くても買える人達はいいけれど、世界には食べ物を買いたくても買えず、飢えに苦しんでいる人達が一杯いるんだよ。こういった人たちは、8億5千万人とも言われている。せっかくの食糧をお金持ちが車を走らせるために使って良いのかという問題もある。」

「ところで、これまで食糧との関連で話をしてきたけれど、もっと根本的な問題点があるんだ。」

「根本的って、どういうことですか?」

「バイオエタノールは本当に環境に優しいのかってことだよ。」

「え~!!!ようやく前回の講義を思い出してきたけれど、サトウキビやトウモロコシなんかの糖類は大気中の二酸化炭素と水から光合成で作られたものですよね。」

「そうそう。ようやく思い出してきたね。」

「だから、その糖類から作られたバイオエタノールを燃やしたときに出る二酸化炭素はもともと大気中にあったものと言えるから、大気中の二酸化炭素を増加させない。だから環境に優しいのではなかったですか???」

「さすが、大体思い出してきたね。でも、大事なところがちょっと抜けている。」

「え~!完璧!と思ったのですが。」

「もう一度、前回の講義録を見てごらん。」

「え~っと、ちょっと待ってください。どこだろう?大事なところと言えば、『未成年者の飲酒はダメ』ってとこですか?」

「こらこら!それは、大事なことには違いないが、法律で決められていることであたりまえのこと。話が逸れているよ(笑)。」

「すみません。。。じゃあ、う~んと、ここかな? 『少なくとも燃焼の過程では大気中の二酸化炭素を増加させない』とありますね。」

「そうそう、そこだよ。」

「『少なくとも燃焼の過程』ということですが、他にどんなことがあるんですか?」

「当たり前に聞こえるだろうけれど、トウモロコシでもサトウキビでも、農業として栽培する場合、何の手間もエネルギーもかけずに生育して、自動的にバイオエタノールになるわけじゃないよね。 

栽培や収穫に機械を使ったり、収穫した作物を運搬したり、作物から微生物が食べられる糖類を調製したり、微生物がちゃんと糖類を食べられるよう温度などの環境を整えたり、バイオエタノールを製品として出荷したり運搬したりと、いろんなところでエネルギーが必要なんだね。

最近、フードマイレージという考え方があるけれど、バイオエタノールだって遠くから運んでくるとなると輸送にかかるエネルギーもバカにならない。

そういったエネルギーは、現在のところ化石資源でまかなわれているわけだから、大気中の二酸化炭素の増加に結びつく。
だから、「燃焼の過程」だけでなく、トータルとして二酸化炭素排出削減につながるかどうか考えなくちゃいけないんだよ。特にトウモロコシは、サトウキビに比べて、微生物が食べられる糖類を調製するのにエネルギーがたくさん必要なんだよ。」

「なるほどね~。」

「別の視点からの環境への影響も問題視されている。 単一種類の植物の栽培による生態系の影響や土地の劣化が懸念されているし、生産を増やすために新しく耕地を作ろうと森林の木々を切り倒したりすることなどが新たな環境問題となってきている。」

「環境問題の解決策と思っていたものが、環境問題の原因となっては全くイミないですね。」

「そうだよね。 さらに、バイオエタノールに限ったことではないけれど、なるべく安く生産するために、地域によっては、貧しい人達が安い賃金で働いているという問題もある。本来勉強をしなければならない子供たちが働いているところもあり、問題だね。」

「問題点がい~っぱい出てきましたけれど、では、どうしたらいいんですか?」

「バイオエタノールに関して言えば、長所・短所をしっかり見極めて、効果のある使い方をすればいいんじゃないかな。
その効果というのは、別に二酸化炭素排出削減だけじゃなくて構わない。例えば、二酸化炭素排出削減効果は小さいけれど、貧困に喘ぐ人々が働く場所を得られるとかね。

どこから見ても100点満点なんて、なかなか無いよ。 また、先生の個人的な意見だけれど、より一般的には、いろいろなことをトータルで考えて、ひとつの考え方にとらわれ過ぎたり、ひとつの方法に頼り過ぎないことが大切だと思うよ。そして、君たちには、いろいろなことを踏まえた上で、より良い解決策を立案し、実行していける人材になって欲しいね。より良い解決策としては、より良い技術を開発することも大切だね。

実際、食糧と競合しないバイオマスである雑草や廃木材などを利用した第二世代のバイオエタノール生産技術の開発が進んでいる。 こういったことは、現在のオトナたちの仕事でもあるけれど、将来それを担うのは君たちだよ。しっかり勉強して、地球を救う人材として活躍して欲しいな。」

「『しっかり勉強』にはちょっとヘコみますが、地球のために、日常のエコだけじゃなく、なんかもうちょっと大きな貢献をしたくなってきました」

次回は環境科学講座第八回へ続く 



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カテゴリ 環境科学講座, 生物講座

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