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10月24日
2008年
posted by 石丸 臣一 at 4:11 PM
「ずいぶん間が空いてしまったけど前の話を覚えているかな?」

「えーと・・・なんでしたっけ?」

「やっぱりそうきたか(笑)」

「私は覚えてますよ!
前回は土壌を構成している粘土鉱物が水やミネラルを供給して植物の育成を助けているって話でしたよね。」



「うん。そうそう。良くできました」

「先生、馬鹿にしてません?」

「いやいや、そんなことはないよ(汗)
えーと、今日はね、酸性雨が降ると植物に悪影響が出るって話をしようと思ってるんだ。」

「なんか、ごまかされたような気がするなぁ・・・」

「まあまあ。
で先生、酸性雨って当然植物にも動物にも悪い気がするんですけど、この間の粘土の話と何か関係あるんですか?」

「うん、大ありなんだなこれが。いま君は酸性雨が動物にも植物にも悪いって言ったよね。

確かにそれは間違いじゃないけれど、それなら酸性雨のひどい都市部では街路樹も全て枯れ果てて、カラスやハトもとっくの昔に居なくなっていると思わないかい?」

「そういえば・・・」

「それに対して、いま東ヨーロッパの森林は酸性雨によってどんどん失われていると言われている。」

「あっ・・・
うーん、でもそれってその森林が酸性に弱い樹木で出来てるってことなんじゃないんですか?」

「うん。それもあるかもしれない。でもね、問題は今回話題になっている粘土にあるんだ。」

「???」

「じゃあ、その前に問題を出そう。」

「えー。」

「まあまあ、そんな嫌な顔をしなさんなって、簡単な質問だから(笑)
酸性雨のpHっていくらかわかるかい。」
「なあんだ、そんなことか。
馬鹿にしないで下さいよ。酸性なんだから中性の7よりもpHが低い雨ってことですよね!」

「ブー、残念。」

「えー?何が違うんですか?酸性雨って酸性の雨のことじゃないの?

「実はね、雨は酸性であるのが普通の状態なんだよ。ほら、ここに実験用に蒸留水を溜めて置いてあるタンクがあるだろう。その水のpHを測ってみてごらん。」

「えーと・・・(pH計を操作)・・・あれ?pH5.6を指してます。
蒸留水だから中性のはずなのに。おかしいなぁ。機械が壊れてるのかなぁ。」

「いやいや、壊れてなんかないよ。それが正しい値なんだ。空気中にはね、二酸化炭素が含まれていることは知っているだろう?」

「地球を温暖化させている人類の敵ですね!」

「うーん、まあ環境問題として取り上げられることが多いからねぇ。最近ではすっかり悪役だなぁ。
でも、二酸化炭素が無くなっちゃうと植物は光合成ができないし、大変なことになるよ。」

「あ、そうか。とにかく減らせば良いってわけではないんですね。」

「うん、まあ二酸化炭素と温暖化の話は環境科学にとって重要な話題だからこれはまた別に話をする機会もあるだろう。今はそれは置いといて、とにかく空気中には二酸化炭素があるってところに注目して欲しい。」

「はい。」

「うん、すなおでよろしい(笑)
で、二酸化炭素は水に溶けるとどうなるかな?」

「炭酸水が出来ます!。」

「いや、間違いじゃないけど君が想像してるようなシュワシュワするような炭酸水じゃないし、今はpHの話をしてるんだよ。」

「そっか。二酸化炭素と水が反応して炭酸になるんですね。炭酸は弱酸だから酸性になっちゃうんだ。」

「ご名答。
現在の地球上の二酸化炭素濃度だと空気中に放置された水が示すpHは約5.6になるんだ。だから雨のpHはこのくらいの値だったら大気汚染がなくっても普通なんだ。数値については研究者によって幾つか違う考え方が提案されているけれど、酸性雨というのはだいたいpH5.6よりも値が低い、強い酸性を示す場合のことを言うんだよ。」

「じゃあ、今度はこっちの水のpHを測ってごらん。この水は地上に降った雨水が土壌にしみこんで別の場所から湧き出してきたものを集めたものなんだ。」

「えーと。pH8くらいです。」

「あれれ?普通の雨水のpHって5.6とかじゃなかったっけ?pH8ってことは酸性どころか塩基性ってことだよね?」

「うん、実はこれこそが土壌の、特にその中に含まれる粘土の力なんだ。前回、粘土を構成している粘土鉱物はカリウムやカルシウムを含んでいて植物の栄養を供給しているという話はしたよね。実はこのカリウムやカルシウムなどはイオンの形で弱く粘土鉱物の中に結合しているだけで、別のイオンと簡単に交換することが出来るんだ。

ここに弱酸性の雨が降ってくると、雨水に含まれている水素イオンが粘土鉱物中の金属イオンと交換して水素イオンは粘土に固定される。そして水の中にはその代わりにカリウムやカルシウムなどのミネラルがたっぷり溶け込んでいくんだ。だから粘土含む土壌を通して流れ出した水は水素イオンの少ないpH7~9くらいの水になってしまうんだな。」

「じゃあ粘土の中の金属イオンはどんどん流れ出してしまって、植物の栄養がなくなっちゃうんじゃないんですか?」

「うん、そうだね。でも、これらの金属イオンは流れ出すことによって植物が水と一緒に吸収するんだ。粘土のままじゃ取り込むことは出来ないからね。そして、植物やその植物を食べて生きている動物が死んで土に帰ると、またその体内にあったミネラルも土壌中に吸収され、粘土の中に戻っていく。こういううまい循環ができあがっているんだよ。それに海に流れ込んだミネラルは波しぶきが風に乗って再び地上に帰ってくる部分もあるんだ。」

「波しぶきですか?大した量じゃなさそう・・・」

「そう思うかい?
海から風に乗って運ばれる塩分の量はなんと地球全体で毎年1000~1500×109kgにも及ぶんだよ。」

「えーと、1000×109kgってことは・・・10億トン!?」

「うん。だから自然の状態ならミネラルの流出を気にする必要はないんだ。」

「ところが、酸性雨が沢山降ってくるとどうなるかな?」

「今までよりももっとどんどん粘土の中の金属イオンが水素イオンに置き換わっちゃいますね。」

「ということはミネラルの流出量が増えて今まで上手くいっていた循環のバランスが崩れちゃう。
そうか、それで土地がやせてしまって植物が育たなくなるんですね!」

「そう。だけどそれだけじゃない。粘土鉱物というのは簡単に水に溶け出すカリウムなどのイオンの他に、ケイ素やアルミニウムが酸素を間にはさんで交互に並び、たくさんつながった水には溶けない高分子からできているんだ。あまり酸が強いとミネラルが溶け出すだけじゃなくて今度はこの高分子が分解されてアルミニウムも溶け出してくる。実は、アルミニウムには植物の育成を妨げる働きがあることが知られているんだよ。」

「じゃあ、ますます植物は育たなくなっちゃうじゃないですか。」

「植物が育たないと、それを食べて生きている動物も生きていけない。完全に死の大地ですね・・・。なんか気分が暗くなって来ちゃいました・・・。 」

「うーん、そうだねぇ。でも地球の大気というのは大昔は強酸性だったことが知られている。それが現在の緑豊かな大地に変わったのだからまったく悲観ばかりする必要は無いと思うんだ。今のうちにこれ以上の森林破壊を食い止め、住みやすい環境を維持していくことが我々の、そしてこれからの君たちの仕事だよ。だからしっかり頑張ってくれたまえよ。」

「なーんか最後はうまく丸め込まれたような気がするけど、自分の将来の子供達のためにも頑張っていきたいと思います。」

次回は環境科学講座第10回へ続く 




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カテゴリ 化学講座, 物理講座, 環境科学講座

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